(河野瑤の自作短歌です。)
永遠に続く音楽などなくて梅雨入りの日の原価計算
郵便配達ではないな 雨音に足音まじる病欠の午後
雨おとの骨董市で語りつぐノッテイングハムのまやかしの薔薇
うたごえがかなしい国の水面には紫陽花色が染みついていた
向日葵の束をかかえて地下鉄に乗る人がいる梅雨があけた日
本箱で窓がかくされその裏は校庭らしい二年めの夏
書きおえたあともしばらく鳥達は詩の形して夏空にいた
湾が見える方角に行くことにした水曜の朝のシマ猫と僕
漆黒に百日紅散る夢をみて電話の声をたしかめる朝
早逝の幼馴染が夢にきて見知らぬ祭りに誘おうとする
ここだよね めちゃくちゃ楽しかったよね 花束置いて立ち去った人
もうだめになってしまった八月のポオトレイトにずぶ濡れの犬
(初出)
歌誌「かばん」2017年6月号、「みずつき6 2017初夏」、かばん関西オンライン歌会