当書「住宅顕信全俳句集全実像」(小学館 2003年)はその顕信の顕信の全句集である。顕信の死の翌年に発行された句集「未完成」もの281句に加え、未発表の作品も収められている。
彼の作品を幾つか読んでみよう。
窓に病人ばかりがたえている冬空
虫がはりついたまま冬の窓となる
病室と窓から見える光景が世界のすべて。世界と対峙するように、窓の反射に自分の命が見えている。
坐ることができて昼の雨となる
車椅子の低い視線が春を見つけた
やっとベッドの上に座って見渡した世界。車椅子からの視線。病を得ると視線のアングルは低くなる。まさに世界を底から見つめているような感じになる。
曇り空重く話くいちがっている
告げられている病名は本当なのか。苛立ち。
聞こえない鳥が鳴いているという
病は耳に進んだのだろうか。逃れられない苦しみ。
当書は顕信の作品と、ルポライター・佐々木ゆりによる彼の生涯のドキュメンタリーが交互に配置され、読者には作品と生涯を重ね合わせて読むように構成されている。一般論としては、作者の人生が作品の前景に出過ぎると、作品の鑑賞を妨げる。だが、顕信の場合は作品群が未完に終わっており、このような補強は必要だろうと思う。実際、作品の切実さは、背景を知らないと理解しがたいかもしれず、彼がたぶん、突き詰めようとしていたであろう「生死」については、取り組む糸口が見えてきた、ぐらいのところで終わっているように思える。
香山リカさんは顕信に、尾崎豊に通じるものを見ている。確かに顕信の作品は、叫びから生まれてきた。顕信がボロボロになるまで句集を愛読した尾崎放哉の作品も、そうだろう。
「住宅顕信 全俳句集全実像」池畑秀一監修 小学館 2003年